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2013年7月4日木曜日

現代に見る「企業再生請負人」(その2)

大都市だけ栄えればいいのか?


写真・図版
 
貴志川線祭りで「たま駅長」を抱き、参加者と記念写真=和歌山市の伊太祈曽(いだきそ)神社


 ――10社もローカル線・航路を再生しました。どんな手だてを講じているのですか。
 

 参考にしようと先進諸国の公共交通を調べて驚きました。特にヨーロッパの国々では「公設民営」という手法が一般的だったからです。固定費として経営を圧迫する鉄路や駅、車両などは行政が所有、あるいは設置し、運行する経費だけを民間が分担するビジネスモデルです。
 

 フランスでは国民が移動する権利を法律で明文化しており、自治体は公共交通を整備する責務を負っています。これらの国々はマイカー社会になって、すべてを民間任せでは公共交通が立ちゆかなくなることを見越しているのです。民間にすべてを任せてしまっている日本の方に無理がある。地方の公共交通を再生するには公設民営しかない、と思っています。
 

――和歌山鉄道貴志川線の再建でも公設民営の考え方を採り入れていますね。
 

 貴志川線の場合、沿線の和歌山市と紀の川市が、路線存続のために鉄道用地を南海電鉄から購入し、その費用は全額を和歌山県が補助しました。松阪航路(三重県)も、松阪市が船舶、港湾施設、駐車場を設置、管理し、それを無償で貸与していただく公設民営を条件に両備グループで引き受けました。しかし、公設民営は再生の土台であって、もちろん収支をチェックし、徹底的に無駄を無くし、コストダウンを図ることは欠かせません。
 それと、どこの再生でも必ずお客様からの「苦情簿」と「事故簿」に目を通します。苦情簿を見れば「車内が汚い」「いつも遅れる」「言葉がぞんざい」などサービスの改善点が、事故簿からは安全運行の問題点が見えてくる。そのうえで乗客増に取り組みます。

■「楽しい」が大事
 ――和歌山電鉄では招き猫になった「たま駅長」のほかにも、「たま電車」「いちご電車」などユニークな電車がありますね。
 

 電車はすべて「乗ってみたくなる車両をつくってください」と、岡山出身のデザイナー、水戸岡鋭治さんにお願いしてできたものです。和歌山は紀州、「木の国」です。その木をふんだんに使った内装にし、温かみのある素晴らしい電車になりました。再生に取り組む時に、お涙ちょうだいみたいな話をしたって、誰も電車には乗ってくれません。苦しいことを並べ立てるんじゃなく、どうやったら「楽しいね」「面白そうだね」と思っていただけるかを考えるようにしています。
 

 ――乗客増の取り組みはほかにもありますか。
 

 「乗ってみたい」と思ってもらえるよう、沿線の文化や歴史を紹介するイベントを開催しています。そのとき力を貸してくださるのが住民の方たちです。和歌山電鉄の場合、「乗って残そう貴志川線」というスローガンを掲げ、手弁当でイベントなどで一緒に汗をかく会員さんが約2200人。本当にありがたい存在です。

 ――心を配っていることはありますか。
 
 

 公共交通は地域をよく知っている人たちが経営を担うべきです。経営のノウハウを指導する外人部隊は極力少ない方がいい。両備グループが事業を引き継ぐ場合、岡山から送り込む幹部は3~4人までと決めています。
 

――そもそも地域公共交通が苦しい理由は。
 

 都会の人はすぐに「どうせ地方は放漫経営をやっているんだろ」「努力が足りない」と言いますが、圧倒的に大きな要因はマイカーの増加と人口減少で乗客が激減したことで、地方ほどその傾向は顕著です。さらに衰退に追い打ちをかけたのが2000年以降の鉄道やバス事業への国の規制緩和です。「競争を持ち込めば、運賃も安くなり、サービス向上につながる」という狙いでしたが、地方では完全に裏目に出ました。
 

 路線バス会社の収益の柱だった高速バスの乗客は、規制緩和で他業種から参入した格安のツアーバスに奪われました。それまで路線の撤廃には国の「許可」が必要で、代替交通機関がない場合は認められませんでしたが、事前の「届け出」だけで済むようになり、路線の廃止や縮小は一気に加速しました。

抜本的改革を
 ――政治に言いたいことは。
 

 お年寄りや学生たち交通弱者が移動できなくなれば、過疎や衰退に拍車がかかります。一部の大都会だけが栄えて、残りは荒涼とした国になっていいのでしょうか。公共交通をどうするかという問いは、どのような社会、どのような国を目指すのかということにつながります。
 韓国でもマイカーから公共交通へのシフトを促しています。都市部では3人乗り未満の車に課金し、バス専用レーンを設けてマイカーを規制しています。政治家の皆さんには、規制緩和の弊害を検証し、すべての人が安心して暮らせる交通施策への抜本的な転換をお願いしたいですね。
 

――やってよかった、と実感する瞬間は。

 お年寄りに「おかげで路線が残ることになった」と手を合わされることもあります。同時に「でも、逃げないでね」と言われる。気が引き締まります

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