五回裏、マウンドの黒原(右)に声をかける智弁和歌山の蔵野=阪神甲子園球場

 和歌山代表の智弁和歌山は17日、最後まで選抜王者の大阪桐蔭にくらいついた。一球一打に湧き上がるスタンドからの歓声。惜しくも敗れた試合の後には、4万7千人からの温かい拍手が選手たちを包み込んだ。

■冷静で強気なリード 捕手・蔵野真隆君
 選抜王者の大阪桐蔭を相手に捕手の蔵野真隆君(3年)は堂々のリードだった。
 初回から強気で攻めた。一回裏、1死三塁のピンチで3番の中川卓也君(2年)に対し、粘られてからの10球目。135キロの直球で三振に取った。この回1点は失ったが、その後、内外に球を散らし、緩い変化球で打者の気持ちをそらす。勝負どころでは内側の直球で攻め、相手打線に的をしぼらせなかった。ロースコアの展開に、高嶋仁監督(71)も「思い描いた通りになった」。
 捕手に定着したのは今年の春から。「バッテリーが課題」と、高嶋監督は昨秋まで捕手への不満を漏らしていた。しかし、蔵野君がマスクをかぶるようになってからは失点が減り、「守りがしっかりしてきた」。和歌山大会でも1試合平均で失点は2。2年生右腕の平田龍輝君も「リードを任せたら抑えられる」と信頼を寄せる。
 
 4月に就任した元阪神の中谷仁コーチ(38)の影響も大きかった。それまで、蔵野君自身、「(捕手は)捕って投げて、周りを見ていたらそれでいい」と考えていたが、中谷コーチがプロで培った経験を目の当たりにし、「野球にちゃんと取り組むようになった」。投手への気配り、打者への注意、配球など学べることはどんどん学んだ
 この日は、相手ベンチから「データ通り」と声が聞こえ、配球が読まれていると察知。すぐさま「自分だったら次どう攻めるか考えてその逆をいった」と組み立てを変える冷静さを見せた。
また、相手打者が直球にタイミングを合わせていると気づくと、変化球を軸にした配球にするなど打者への観察も怠らなかった。
 2人の投手をリードし、強打の大阪桐蔭を7安打、2得点に抑えた。それでも試合後、蔵野君の口から出たのは、「投手がよくやってくれた」と、投手をたたえる言葉ばかりだった。
 「プロでやりたい気持ちも芽生えた」と捕手に定着して、目標も一段階上がった。敗戦の悔しさは次のステージで必ず晴らす。